どんぐりの木が大きく育ち、鳥やチョウ、トンボなどが舞い、ミナミメダカが泳ぎ、春になると一面にカンサイタンポポが咲く。そんな森が草津のダイキン工業滋賀製作所の中にあります。
「ダイキン滋賀の森」は、美しい琵琶湖を守ることにもつながっています。
近隣の小学生がどんぐりや松ぼっくりを拾い、自然や外来種について学ぶ環境教育のフィールドとしても活用されている「ダイキン滋賀の森」。約1万平方メートルの森の中には池や水路があり、様々な動植物が生息しています。
池には、絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)となったミナミメダカが1000匹以上も生息。トンボの幼虫(ヤゴ)が育ち、準絶滅危惧種の水草トチカガミも自生しています。
水路にはゲンジボタルの幼虫が暮らし、初夏にはホタルが舞う姿を見ることができます。
森では落葉をあつめた「カブトムシのゆりかご」の中でカブトムシの幼虫が育ち、夏には木々にカブトムシが集まってきます。
秋になるとクヌギやアラカシなどの木からどんぐりがたくさん落ちてきて、自然学習に来た児童たちを楽しませています。
草地には春になると在来種のカンサイタンポポが一面に咲きます。
こうした自然環境は、何もしないでおくと外来種や環境の変化の影響でどんどん失われていきます。
「工場ができる前の地域の自然を再現する」ことを目標に、ダイキン工業は2011年、滋賀製作所設立時からあった庭園や池、樹木を残しつつ、琵琶湖や田上山地など近隣地域・同流域の植物を植え「ダイキン滋賀の森」をつくり、周辺の地域本来の自然(里地里山)を再現することを目指した取り組みを始めました。
職場の代表者からなる「グリーンハート分科会」が森の中の落ち葉掃除や外来種の駆除活動をしています。外来種を取り除き、在来種の保全に取り組むと、鳥やチョウ、トンボなども飛来するようになりました。
近隣の小学校の環境学習として、森の中を歩き、どんぐりや松ぼっくりを拾いながら「なぜ森を保全しないといけないのか」「外来種がどんな影響を与えるのか」などを説明しています。
春に小学校にクヌギやアラカシの苗を渡し、児童が苗木に育て、秋に森に来て植樹してもらう活動にも取り組んでいます。分科会の担当者は「地域の自然を守り、育てる意識を高めるきっかけになれば」と期待します。
まさに、琵琶湖版のSDGsマザーレイクゴールズ(MLGs)のGoal 3「多様な生き物を守ろう」の
「生物多様性や生態系のバランスを取り戻す取り組みが拡大し、野生生物の生息状況が改善するとともに、自然の恵みを実感する人が増加する」
を実現する取り組みです。
「ダイキン滋賀の森」にある池の水は工場内の雨水で、池は工場外に放流する前の水質監視の役割も担っています。
薬品や油を感知した場合はセンサーにより分離装置を作動して回収してから草津川に放流しています。
琵琶湖につながっている草津川を汚さないために、工場の排水出口には水門を設け、汚れた水は排出しないようにし、草津川や琵琶湖の環境を守っています。
ダイキン工業は、「ダイキン滋賀の森」だけでなく、気温の上昇を緩和し、大気を浄化する森を「地球のエアコン」として、世界中で森を守る活動に取り組んでいます。
2014年からは日本国内だけでなく、インドネシア、中国、アマゾン地域などで「空気をはぐくむ森」プロジェクトを実施しています。
世界各地で木を植えるだけでなく、地域住民が森林伐採に頼らず豊かに暮らせるように支援しています。
農業の指導をすることで焼き畑を減らしたり、燃焼効率の良いかまどを提供することで薪の過剰伐採をへらしたり、教育や支援で環境も生活も良くなることを目指して活動しています。
「ダイキン滋賀の森」は11月1日、環境省「自然共生サイト」に認定され、環境省から認定証を授与されました。
「自然共生サイト」は企業の森や里地里山など民間の取り組みによって生物多様性の保全が図られている地域を国が認定する制度です。2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようとする国際目標「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」達成のため、環境省が2023年度に認定を始め、全国で253カ所が認定されています。
「ダイキン滋賀の森」は、里地里山の環境を再現し、多様な動植物からなる生態系が存在し、ミナミメダカなどの希少な動植物種が生息していることが評価され、「自然共生サイト」の認定を受けました。
担当者は「市内には住宅地が多く、生き物が暮らせる場所が減ってきています。ビオトープに完成はないので、環境の専門家のアドバイスを受けながら生き物の生息場所を守っていきたい」と話します。
水源となる森を守り、生物多様性を守る活動は、琵琶湖や海を守ることにもつながっています。
「ダイキン滋賀の森」を一歩出ると、セイヨウタンポポが咲いていました。繁殖力の強いセイヨウタンポポが増えて、日本の在来タンポポは減ってきていますが、「ダイキン滋賀の森」の草地には一面に在来種のカンサイタンポポが咲くそうです。
「人間の手が加わるからこそ守れる自然がある」という言葉が心に残りました。
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