お知らせ
2025.12.09

【しがライターReport】石を積み、未来をつなぐ。~坂田昌子さんと棚田の環境改善WS ― 鵜川の棚田で石積み ―

『100年後に読みたい琵琶湖日記』のグループラインで、ひら森の学校・小林健司さんから「坂田昌子さんと棚田の環境改善 WS ― 鵜川(うかわ)の棚田で石積み ―」のお知らせが届きました。
琵琶湖の西・高島市鵜川には、山の斜面に寄り添うように連なる美しい棚田があります。先人たちが石と土に向き合いながら築いてきた、地域の宝物です。

しかし近年、田畑の担い手はいても、石積みの積み方・直し方の技術が途切れ、崩れた石積みは放置されたり、コンクリートで塗り固められてしまう状況になってしまいました。湖西線や湖岸道路から眺めるたびに美しいと感じていた鵜川の棚田。その場所で石積みのワークショップが行われると知り、胸が高鳴りました。
会場は“ひら森のがっこう”、棚田の中腹にある遊び場兼作業場。小学校2年生から中学1年生までのスクール生が思い思いに棚田を駆け巡り、鶏が「コッコッ」と出迎えてくれる温かな場所です。建物に入ると大きな窓から琵琶湖がパノラマのように広がり、ちょうど湖西線の電車が走り抜けていきました。振り返ると棚田と比良山系の山々。子どもたちが作った土人形が飾られ、楽しげに歌って踊っているようです。なんという贅沢な環境でしょう。

このワークショップでは、坂田昌子さんを講師に迎え、棚田を守る伝統工法の「石積み」を体験します。
今回の作業の流れは、田んぼに垂直の段差をつくる「段切り」→土を運び落ち葉と混ぜて堆肥にする→川で水の流れを学ぶ→石を選ぶ→石頭(せっとう)ハンマーを使って積む、というもの。石積みを築くことは、琵琶湖の水を守り、棚田の生態系を守り、技を未来につなぐ営みです。
大地に触れ、汗を流し、山の空気を味わう――そんなひとときでした。

棚田に触れ、未来に触れる

  1. 段切り前
  2. 段切り後
  3. マウンドつくり

「田んぼの段切りから始めます。まず、水の向きを知ることです。自然の地形を無理に断ち切らず、傾斜を利用して山からの水の流れをつくります。段はほぼ垂直に切り、地形を見ながら水が自然に流れるようにします。
木や植物の根には“菌根菌(きんこんきん)”が共生しています。菌根菌は根とくっついて“菌根(きんこん)”という構造をつくり、水や栄養を吸収しやすくし、病原菌や乾燥に強くします。だから根を傷めないようにしてね。
掘った土は落ち葉や藁と混ぜ、空気を入れると良い土(マウンド)になります。除草剤で草を枯らすのではなく、土と混ぜれば肥やしになります。衛生優先もほどほどに。ミミズの糞は『キャスト』と呼ばれ、微生物が多く土壌改良に役立ちます。気持ち悪がらず、相棒だと思ってね。

ではラインを引きますので、約1m掘り下げてください。掘る人、運ぶ人、攪拌する人、石を動かす人に分かれて作業しましょう」。
初対面の参加者同士が先生の合図で動き始めました。

手のひらの石から、琵琶湖の自然が動き出す。

  1. 坂田昌子さん
  2. 鶏が遊びにきます
  3. 石を拾う

昼食はカレー。休憩しながら坂田さんが話します。
「半世紀前の田んぼは川と水位が同じで、雨が降ると水浸しでした。梅雨には魚が田んぼで産卵し、川に戻っていくのが当たり前。地域の人は田んぼで魚をつかんでいたんです。
しかし圃場整備で川は護岸され、水稲栽培は安定したものの、魚は田んぼに入れなくなり、漁業にも影響が出はじめました。そこで“魚のゆりかご水田”をつくり、田んぼと琵琶湖を再びつなぐ取り組みが始まったのです」

参加者からは「魚道をつくりたいね」という声も。
夏のワークショップを行った近くの川へ移動すると、透明な流れの中に大小さまざまな石がごろごろ。
「今日は、積み石(根石)の奥に入れる『ぐり(栗)石』を採集します。手のひらサイズの石を箕(み)に入れて運んでください」
子どもたちは流木を見つけて大喜び。川底の石はそれぞれ表情が違い、選ぶのに迷うほどです。

ひとつの石が、100年先の風景をつくる。

  1. こっちの石がいいんじゃない?
  2. 積み石を据える手には石頭
  3. 石積み共同作業

石積みには、穴太衆の伝統的な「穴太積み」や自然石を中心とした「野面積み」などがあります。今回は坂田さんが師匠から習った自然石の積み方です。
「5つの役割の石があります。積み石(傾斜のある根石)ぐり石(手のひら大)間詰め石(隙間に入れる小石)介石(楔状の石)天端石(平たい重い石)
道具は石頭(せっとう:ハンマー)と烏賊型(いかがた:片手鋤)を使って積みます。石は1mm触れていれば安定します。2~7か所が触れるように積むと良い。重心は2本の指に乗る場所にあります。石の表情を見て“据え”ます。置く、とは違います。段切りの方向に傾斜を向け、隣の石とは石頭でコンコンと叩いて密着させます。
根石の後ろを強化する“裏ごめ”にはぐり石。これは濁った水をきれいにする役目もあります。二段目の石を安定させ、介石を差し、小さな間詰め石を入れ、最後に天端石を乗せます」まるで、石と対話するように積みます――「あなたはどこに座りたい?」と尋ねながら。

先人の知恵を、いま、わたしたちの手で。

  1. 石運びも共同作業
  2. 熱心に説明を聞く
  3. 石を選びます

参加者と小林さんの感想を紹介します。
吉田さん(福井県)
「景色、メンバー、子どもたちと鶏が走り回る環境……すべて含め、とても楽しく、身体は疲労しましたが充実した一日でした」
土屋さん(長浜市)
「鵜川から見る琵琶湖と棚田は本当に美しい。いつか魚が琵琶湖から上ってきて田んぼを泳ぐ、生き物の交通路になる未来を願っています。石積みの練習と交流にまた来ますね」
西澤さん(滋賀県立大学)
「坂田さんの生物多様性への情熱は“生き物への愛”“生への希望”から来ているのだと感じ、共感しました」
小林健司さん(主催者)
「石積みは“琵琶湖をとりまく生き物と人々の暮らし方を含んだ取り組み”です。子どもたちが遊びながら、時にダメ出しされながらビオトープを作るのも、この営みの一部。今日が始まり。ぜひまた鵜川に来てください」

#坂田昌子
高尾山のガイド、自然環境の保全・再生を中心に、日本各地でワークショップを実施。坂本の石工集団「穴太衆(あのうしゅう)」、針江の「かばた」、魚のゆりかご水田など、滋賀との縁も深い。
#けんちゃん
ひら森のがっこう。特殊伐採・庭の環境改善を手がける。音読家。元NPO職員。セルフビルドした家でコーヒーを自家焙煎。
#ひら森のがっこう
鵜川の棚田にあるフリースクール。徒歩で琵琶湖・川・山へ行ける環境で、食べ物づくり、工作、道具づくり、遊び、自然の恵みを受けながら過ごす学びの場。

レポーター紹介

文/辻村 琴美・ライターで文化コーディネーター

1956年大阪市生まれ。滋賀県野洲市在住。(特非)コミュニテイ・アーキテクト近江環人ネットワーク理事長。
写真家の辻村耕司の妻。職業は編集者。一男一女を授かり夫の実家滋賀県の旧中主(ちゅうず)町にて三世代で同居しながら、環境倫理雑誌M・O・H(もう)通信(2003~2016)編集長を務めた。
好きな言葉は「信頼と優愛」。
目標は“びわ湖からつながりのバタフライエフェクト”を創ること。
特徴は夫を「ダーリン」と呼ぶ。現在は夫と猫の六兵衛の3家族。
先代猫の太郎を交えた『にゃんこといっしょ』(2023)自費出版。

写真/辻村耕司・滋賀を旅する写真家

1957年滋賀県生まれ。野洲市在住、(公益財団法人)日本写真家協会(JPS)会員。
1990年に滋賀にUターン後『湖国再発見』をテーマに琵琶湖周辺の風景や祭礼などを撮影

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