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2024.12.11

【しがライターReport】茅葺きは懐かしい未来 近江の茅葺(かやぶ)きと茅葺きをめぐる営み~豊かな環境づくりを地元から~

「私は茅葺きで生計をたてています」と笑顔の大野さんは日本で20名に満たない女性茅葺き屋根職人の一人です。

大野さんは茅葺き屋根をめぐる里山の営みに心を奪われました。
『茅葺(かやぶ)き』と聞いて何を思い浮かべますか? どこか遠い存在になってしまった茅葺き屋根は私たちの周りに残っています(トタンに覆われています)
材料のヨシ、ススキ、竹を刈る営みもしっかりと息づいています。
文化的価値が高く、SDGsにおいて提唱されている環境保全や生物多様性の維持に深く関わっています。
伝統的に茅葺き屋根は、その地域で採れる植物を使って葺かれます。

世界に目を向けると海外では中国、ウクライナ、トルコ、ルーマニアが主な材料の産地であり、ヨーロッパの茅葺き屋根は輸入に頼る傾向にあります。
一方日本は約9割が国産で、滋賀県は近江八幡市円(まる)山をはじめとするヨシの産地であり、地元の葭(滋賀ではヨシにこの漢字が使われます)屋さん、竹屋さんがまだ残っています。
茅葺き屋根は地産地消の代表格ともいえ、滋賀県には茅葺き屋根の景観が多く残っています。

なぜに茅葺き?

  1. 学生時代に参加した男鬼でのワークショップ風景
  2. “かごうち”と呼ばれる妻飾り
  3. かま、針、たたき、屋根ばさみ

大野さんは滋賀県立大学で民俗学や伝統建築を学び、茅葺き職人になることを決意しました。
研究室の先輩たちが企画したワークショップに参加し、茅葺きにハマったのです。
彦根市の男鬼(おおり)という山間の廃村集落に残っていた茅葺き屋根を保存しようという試みでした。
職人さんを先生に招き、一般の参加者を募って屋根を葺きました。

卒業と同時に職人になるべく京都美山の会社に入り現在は独立6年目、茅葺き職人の道に入って13年目を迎えます。
滋賀を拠点に「茅葺き かぜおり」の一人親方として活躍中。
迅速で繊細な技には定評があるだけでなく、地域に残された“妻飾り“を修復するなど先人の技術を受け継いでいます。

またヨーロッパに出掛けて茅葺きについて学ぶなど研究熱心です。
茅葺きの滑らかで美しい形は、かま、針、たたき、屋根ばさみなど、独特の道具を用いて作ります。
「伝統技術を磨き、その土地の持つ風土を織りなす職人になりたい」と目を輝かせる大野さんにインタビューしました。

ヨシ、ススキは美しくて良し

  1. 伊吹山の茅場
  2. 近江八幡西の湖畔の葭地
  3. 茅葺き屋根のある風景

「昔から茅葺き屋根は身の回りで採れる植物を使って葺かれてきました。そのため屋根にはワラやヨシ、ススキといったいろいろな種類の植物が使われています。古くなった屋根は解体した後、田畑の肥料として土に還ります。実はヨシやススキは私たちの暮らしを支えてくれています。ヨシを刈る葭地(よしじ)は魚の産卵を助け、草原や茅場(かやば)では水源涵養機能(水が少しづつしみ通る)が高く、野焼きをすることで土壌中に大量の炭素を固定してくれます。さらにヨシやススキを屋根に葺くことで、吸収したCO2を固定することにもなります。ヨシやススキは毎年刈り続けないと、すぐに藪になってしまいます。人の手が入ることによって良い環境が維持されている、“里山”なんですね」

ヨシは古来から食料、生薬、肥料、紙、筆記具、楽器、漁具、屋根、垣根、住居、船などに利用されてきました。
「いろんな考え方はありますが、SDGsの提唱する持続可能な自然環境を保つために必要なことは、ただ単に太陽光パネルを設置するとか電気自動車に乗る事なのでしょうか?身の回りの自然を活かし生かされる茅葺き屋根の在り方こそ、これから私たちがどう生きるべきかという問いへの大きなヒントになるのではないでしょうか?先人が伝えた里山の暮らしの知恵を捨てるのはもったいない」と、残念そう。

ひょっとしたら、若い世代は(一周回って)日本の昔の暮らしや風景に憧れを抱いているのかも・・・。

“新しい結(ゆい)“が里山の可能性を広げる、茅を見て触れて使って美しさを知ってほしい

  1. “差し茅“と呼ばれる修理の様子、葺き替えよりも使う材料が少なくてすむ
  2. 彦根市男鬼町でのワークショップの様子
  3. 2024年2月に完成した屋根、葺き替えまでの約10年間をワークショップで差し茅を続けて、屋根の寿命を延ばした

かつて茅葺き屋根は “結”と呼ばれ、隣近所の協力のもと屋根を葺いたり、茅を調達したりしていました。
しかし高度経済成長期以降、茅葺き屋根が減ったことで“結“が消滅し、茅葺き屋根の維持は集団から個人の肩に掛かってしまっているのが現状です。

個人で維持するには負担が大きいので“新しい結“が必要です。現代の“結“はどんな形でしょうか?
「伊吹山で毎年秋にススキを刈る、茅刈り体験会を行っています。これは学生時代からずっと続けていて、今年で16年目になります。毎年各地からいろいろな方が参加して下さっています。刈り取った茅は県内の茅葺き屋根を葺く際に無償で譲渡しています」。

また最近ではクラウドファンディングで資金を募り、葺き替えや修理の資金に充てるという事例も増えています。

“茅葺きファン“を3.5%作ると可能性広がる

  1. シンポジウムでのパネルディスカッション
  2. 伊吹山で茅場の植物観察会
  3. 伊吹山茅刈り体験会

「コミュニテイの一握り(3.5%)の人が“茅葺き好き“になることで、里山の暮らしが伝承される可能性が広がる」そうです。
ハーバード大学の研究によると、歴史的に成功した多くの社会運動への積極的な参加者は、全体人口のわずか3.5%だったといいます。

「現代の若者にとって茅葺きは未知の領域。でもその魅力や良さに気づいている人は、近年確実に増えています。みんなが茅葺き屋根の家に住んだり。茅葺き職人になったりしなくても、応援する人が増えてすそ野が広がれば茅葺は確実に未来へつながリます」
“茅葺きは懐かしい未来“の姿なんですね。2025年もワークショップやトークイベントなどを開催予定です。
詳細情報はインスタグラム@kayabuki_kazeoriをチェックしてください。

皆様へ、「海と日本プロジェクトin滋賀県」をご覧いただけて光栄です。来年も近江の“海“にまつわる話題をお届けします。良いお年をお迎えください(辻村琴美、耕司)

#茅葺き かぜおり
https://kazeori.jp
@kayabuki_kazeori
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#多賀町
#シンポジウム近江茅葺きと茅葺をめぐる営み
#秋の伊吹山で茅場の植物体験
#秋の伊吹山で茅刈り体験会
#湖北古民家再生ネットワーク
#日本茅葺き文化協会
#ヨシの文化史-水辺から見た近江の暮らし-西川嘉廣著淡海文庫24サンライズ出版
#コミュニティアーキテクト
#海と日本プロジェクトin滋賀県 

写真提供:大野沙織さん

レポーター紹介

文/辻村琴美・文化コーディネーター

1956年大阪市生まれ。野洲市在住。(特非)コミュニテイ・アーキテクト近江環人ネットワーク理事長。
写真家の辻村耕司の妻。職業は編集者。一男一女を授かり夫の実家旧中主(ちゅうず)町にて三世代同居。
環境倫理雑誌M・O・H(もう)通信編集長を務めた。好きな言葉は「信頼と優愛」。
目標は“びわ湖から世界に羽ばたくバタフライエフェクト”を創ること。

写真/辻村耕司・滋賀を旅する写真家

1957年滋賀県生まれ。野洲市在住、(公益財団法人)日本写真家協会(JPS)会員。
1990年に滋賀にUターン後『湖国再発見』をテーマに琵琶湖周辺の風景や祭礼などを撮影。

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