「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム」(通称:琵琶湖システム)が7月18日、国連食糧農業機関(FAO)が提唱する世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。「琵琶湖システム」とは?世界農業遺産とは?詳しくご紹介します!
「琵琶湖システム」は、「魚のゆりかご水田」などの琵琶湖周辺の農業と、琵琶湖の伝統漁業「エリ漁」、山林緑化や水源林の保全、食文化、滋賀の伝統野菜など琵琶湖を中心とした生物と共存する持続的な農林水産業の仕組みの総称です。
琵琶湖の周辺に広がる水田は昔から、豊かな琵琶湖の生命を育む役割を果たしてきました。
琵琶湖の固有種であるニゴロブナは秋から冬にかけては琵琶湖で過ごし、春になると内湖や水路を遡上し、産卵のために湖辺の水田に向かいます。水田は水温が高く、稚魚のエサとなるプランクトンが豊富であるため、産卵や稚魚の成育に適しているからです。魚の赤ちゃんがすくすくと育つ水田は魚にとって「ゆりかご」となりました。
なんと、約2000年前の弥生時代から魚は水田に遡上していたそうです。弥生時代に琵琶湖辺で水田開発が行われ、ニゴロブナなどの湖魚が雨季の水位上昇を利用し、それまで産卵していたヨシ帯を通り抜け、水路を伝って水田まで遡上して産卵するようになりました。
1965(昭和40)年以降、生産性の向上や農業経営の改善のため整備が進められ、農作業が効率的に行えるようになりましたが、水路を深くしたことから、湖魚が水田に遡上しにくい環境となりました。
近年、「魚のゆりかご水田」に戻すために、排水路に魚道を設置する取り組みが進んでいます。
堰上式魚道を排水路に設置し、排水路の水位を階段状に水田の高さまで上げ、琵琶湖から遡上してきた湖魚が水田に入ることができるようになりました。
水産動植物に影響を及ぼすとされている除草剤を使用せず、農薬・化学肥料の使用を5割以下にした「人にも魚にも優しい環境」で栽培されたお米を「魚のゆりかご水田米」として販売しています。
エリ漁は、湖岸から沖合に向けて矢印の形に網を設置し、水中の障害物に沿って進むという魚の習性を利用して、「つぼ」と呼ばれる部分に誘導して捕獲する定置網漁です。
1000年以上前から琵琶湖で行われており、水田に向かう湖魚を農作業しながら捕獲するために待ち受け型の漁具を考案したのがエリ漁の始まりです。おかずを捕るので「オカズトリ」と呼ばれているそうです。
エリ漁の免許に関する1903年(明治36年)の申請書には、網目のサイズも記載されています。稚魚が網目をすり抜けて捕獲されないようにするためです。SDGsという言葉がなかった時代から稚魚を保護し、必要な分だけ捕獲してきたエリ漁は、水産資源を守る持続可能な漁です。
「琵琶湖システム」は、エリ漁と魚のゆりかご水田だけでなく、湖魚の繁殖環境の保全にもつながる山林緑化や水源林の保全、化学合成農薬・化学肥料の使用量を半分以下にして生産された「環境こだわり農産物」、湖魚と米で作る「フナズシ」などの食文化、滋賀の伝統野菜なども含まれています。
「琵琶湖システム」が認定された世界農業遺産とは、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり発達し、受け継がれてきた伝統的な農林水産業と、育まれた文化、景観、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農林水産業システムを認定する仕組みです。現在、世界で65地域、うち日本国内13地域が認定されています。
滋賀県は、「世界農業遺産」認定を目指し、2016(平成28)年から取り組みを始めました。
2019(平成31)年2月に日本農業遺産に認定され、同年、FAOに世界農業遺産認定申請書を提出。今年6月16日、新型コロナウイルス感染症の影響で延期となっていた現地調査が行われ、7月18日の審査会で琵琶湖システムの認定が決定しました。
滋賀県で受け継がれてきた農業や漁業、食文化などが世界に認められたことを誇りに思い、次代に受け継がれていくことを願います。
【琵琶湖システム】
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