奥山で水が生まれ、琵琶湖に流れ着くまでに水はどのように姿を変え、私たちの生活に関わっているのでしょうか?「水の循環」をテーマに、奥山の水源から雑木林、田園、琵琶湖周辺の暮らし、ヨシ原、琵琶湖と水の流れに沿って写真を展示する「今森光彦 里山 水の匂いのするところ」が9月18日まで滋賀県立美術館で開催中です。
メイン写真:今森光彦《野菜を洗う人》 1999年©Mitsuhiko Imamori
水の旅の始まりの場所、水源地でもある奥山の風景から展示は始まります。
今森さんにとっての自然は、動物も生き物も人間も同じ立場であるという「自然(じねん)」に基づいています。山奥にトチの木があり、その実を拾う人や、お盆の時期に祖先を供養するために川辺に置かれる「おしょらいさん」など、自然と人、水が関わり合って生きる姿をとらえた写真を見ることができます。
第2章「萌木の国」では、今森さんが「やまおやじ」と名付けたクヌギの古木の写真を展示。クヌギは薪や炭の原料として伐採されても切り株から芽吹き、また伐採しても芽吹き、繰り返すうちに面白い造形になります。今森さんはこの「やまおやじ」を保存したいと、1997年にマキノ町(現高島市)の雑木林を購入し、保存活動を始めました。
四季折々の雑木林の風景や、そこに集まる鳥や昆虫、「やまおやじ」に根付いて花を咲かせるタチツボスミレなど雑木林の中で力強く生きる命をとらえた写真が並びます。
仰木の里に広がる棚田。比叡山のすそ野に広がる棚田を空撮した写真は圧巻です。人の手が入りつつも豊かな生物多様性が守られながら自然が続いている棚田。展示されている写真は1989年に撮影されたもので、一部の区画整理が行われた現在は見ることができない風景だそうです。
県立美術館の学芸員の芦髙郁子さんは「現在は一部が整備され風景が変わってしまっています。そこには、生態系や人の営みがあります。今森さんの作品を通して、自然との関わり方を考えるきっかけになれば」と話します。
展示されているのは、棚田の風景のほか、雨の日の田んぼやアジサイに止まるツバメシジミ、巣に帰ってきたミツバチなど、里山を愛し、里山にアトリエを構える今森さんだからこそ撮影できる写真です。
第4章は「湖(みず)辺の暮らし」。琵琶湖の漁師など湖と共に暮らす人の姿を撮影した写真が並びます。
高島市針江地区では、比良山系に降った雪や雨が伏流水となり各地で湧き出ていて、湧き水を生活用水に使う「川端(かばた)」を中心に人々が生活しています。今森さんの写真から、針江の透き通った湧水や、水を使い生活する人、残飯を食べる鯉など、自然と動物、人が一緒に生きていることが伝わってきます。
第5章「くゆるヨシ原」では、近江八幡市西の湖と高島市新旭町のヨシ原の風景を展示。今森さんは晩秋の深いセピア色に染まるヨシ原の眺めに昔の琵琶湖を思うのだそうです。冬にヨシを刈り、3メートルほどの高さのあるヨシで作る円錐形の「丸立て」や春の風物詩ヨシ焼き、そして芽吹くヨシ。季節によって姿を変えるヨシ原と人の関わりを知ることができる展示です。
最終章は「還るところ」。奥山で生まれた水が流れ着く琵琶湖の風景が展示されています。季節によっても時間によっても姿を変える琵琶湖。知っているようで知らなかった豊かな色彩の琵琶湖を見ることができます。
最後の写真は2001年に撮影された「光る湖面」。灰色の湖面に光の筋が走り、水の粒子が対岸の景色を消して、空と水面だけが広がる写真です。水の旅は琵琶湖で終わるのではなく、蒸気になって循環することを表現している1枚です。
水が生まれ、琵琶湖に流れ、循環してまた水となる。滋賀の人々がどのように水と関わり、水と共に暮らしてきたかを教えてくれる今森さんの92点の写真。
水と人との関わりを知ることで、あらためで水の大切さに気付くことができる写真展です。
「今森光彦 里山 水の匂いのするところ」
開催期間:2023年7月8日(土)~9月18日(月・祝)
開館時間:9:30-17:00(入場は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館、翌日火曜日休館)
会場:滋賀県立美術館 展示室3、ラボ 滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1
観覧料
一般:1,200円、高校生・大学生:800円、小学生・中学生:600円
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